ミフラーブ文様は、イスラム建築に見られる「ミフラーブ」の形を取り入れた文様です。
ペルシャ絨毯をはじめ、トルコ絨毯やトライバルラグなど、イスラム圏のさまざまな手織り絨毯に見られ、礼拝用の「プレイヤーラグ」を代表するデザインとしても知られています。
アーチ状のミフラーブを中心に、ランプ、花や植物、文字などが組み合わされることもあり、産地や時代、織り手によって多彩な表現を見ることができます。
ミフラーブ文様は、イスラム建築に見られる「ミフラーブ」の形を取り入れた文様です。
ペルシャ絨毯をはじめ、トルコ絨毯やトライバルラグなど、イスラム圏のさまざまな手織り絨毯に見られ、礼拝用の「プレイヤーラグ」を代表するデザインとしても知られています。
アーチ状のミフラーブを中心に、ランプ、花や植物、文字などが組み合わされることもあり、産地や時代、織り手によって多彩な表現を見ることができます。
イスラム教では、信者は一日に5回、メッカにあるカアバの方向「キブラ」に向かって礼拝を行います。モスクでは、その礼拝方向を示すため、キブラ側の壁にアーチ状の壁龕が設けられています。これが「ミフラーブ」です。
このミフラーブの形を絨毯の中に取り入れたものが、ミフラーブ文様です。アーチ状の輪郭によって絨毯の上下が明確になり、礼拝用として使用する場合には、ミフラーブの先端側をキブラ、すなわちメッカの方向へ向けて敷きます。
このような一人用の礼拝用絨毯は、英語で「Prayer Rug(プレイヤーラグ)」または「Prayer Carpet」と呼ばれます。
ミフラーブ文様はペルシャ絨毯だけに見られるものではありません。トルコをはじめとするイスラム圏でも広く用いられ、トルコでは「セッジャーデ」と呼ばれる小型の礼拝用絨毯が数多く織られてきました。ギョルデス、ミラス、ラディックなどでは、それぞれ特徴的なミフラーブ文様が発達しています。
また、ミフラーブ文様を持つすべての絨毯が、実際に礼拝のために使用されていたとは限りません。長い歴史の中で、ミフラーブは宗教的な意味を持つと同時に、装飾性の高い意匠としても絨毯に取り入れられてきました。
ミフラーブ文様は、産地や織り手、織りの技法によってさまざまな姿に変化します。都市部で織られるペルシャ絨毯では、滑らかな曲線を生かした優美なミフラーブが多く見られる一方、部族系のトライバルラグでは、三角形や階段状の線を組み合わせた直線的なミフラーブが多く見られます。
都市部のペルシャ絨毯では、ミフラーブの輪郭に滑らかな曲線を用い、その周囲を花や蔓草、樹木などで飾ったものが多く見られます。
細かな結びによって曲線を表現しやすいため、建築のアーチを思わせる複雑な輪郭や、花々が連続する繊細な構成をつくることができます。
この絨毯では、ミフラーブの左右上部に、礼拝の際に手を置く位置を意識したような鳥の文様が配置されています。祈りのための構成の中に鳥の姿を取り入れた、特徴的なデザインです。
トライバルラグでは、ミフラーブが三角形や菱形、階段状の輪郭によって表現されることがあります。
都市部の絨毯に見られる滑らかな曲線とは異なり、直線を主体とした幾何学的な造形が特徴です。これは単純化された表現という意味ではなく、それぞれの部族や地域に受け継がれてきた造形感覚の中で、ミフラーブが独自に再構成されたものです。
同じミフラーブという建築的なモチーフをもとにしていても、織り手の属する地域や文化によって全く異なる表情が生まれることも、ミフラーブ文様の魅力の一つです。
ミフラーブ文様の内部には、上部から吊り下げられたランプが描かれることがあります。
イスラム建築では、かつて油を入れたガラス製の吊りランプがモスクなどの照明として使用されていました。大きなモスクの天井に多数のランプが吊り下げられ、夕刻に灯りがともされる光景は、礼拝空間を象徴するものの一つでもありました。絨毯に表されるランプには、実際の照明器具を写したという意味だけでなく、象徴的な意味もあります。
コーラン第24章35節、いわゆる「光の章句」では、神の光が灯火になぞらえられています。そのため、ミフラーブの中央に吊り下げられたランプは、イスラム美術の中で「神の光」を想起させる象徴として解釈されることがあります。
イスラム美術において、文字は重要な装飾要素の一つです。
モスクの壁面、陶器、金属器、写本、織物など、さまざまな作品にアラビア文字による銘文が用いられてきました。ミフラーブにもコーランの一節や宗教的な言葉が記されることがあります。
絨毯にも文字が取り入れられ、礼拝用絨毯にはコーランの章句、神の名、宗教的な言葉などが織り込まれた例があります。文字そのものが文様として整えられ、幾何学文様や植物文様とともに一枚のデザインを構成しています。
書体にも時代や地域による違いがあり、角張った形を特徴とするクーフィー系の書体や、流れるような線を持つナスタアリーク体など、さまざまな書体が用いられてきました。文字文様を見ることで、その絨毯が生まれた文化的背景や時代を考える手掛かりになることもあります。
小さめのミフラーブ絨毯は、床に敷くだけでなく、タペストリーのように壁面へ飾ることもできます。アーチ状のミフラーブは縦方向にまとまりのある構図を持つため、壁に掛けると一枚の織物作品として文様を楽しむことができます。